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第2章国家は破産しないために国民を破産させる

この章では国家が借金を減らす方法と、私たちの個人資産に及ぶ影響について見ていきましょう。

現在、国民には資産があって国家には借金があります。
資産がある人と、借金がある人の利害は常に対立します

資産がある人にとってデフレは歓迎で、借金のある人にとっては逆にインフレになることが望まれます。

まずはこのあたりから考えていきましょう。

インフレになると借金が減ることになる
インフレで借金は減る

物価が上がることを『インフレーション』といい、インフレが進行すると借金は減ることになります。
インフレになると企業の売上げが上がり、給料も税収も上がります。

例えば、あなたが100万円の借金をしていたとしましょう。
元々の給料は25万円だったとします。
これは借金が給料の4ヶ月分だったことを意味します。

インフレが進行して、給料が上がって50万円になったとします。借金は2ヶ月分の給料ということになります。(図11参照)
もっと極端なインフレとなって給料が100万円になると、借金は無いに等しくなります。

このように、インフレが進行すると借金はどんどん目減りすることになるのです。

多額の借金を抱えた日本国家にとっては、『インフレにする』、あるいは『インフレになること』が望ましいことになります。
これから意図的にインフレに誘導しようとするでしょう。
また仮に、制御できないほどのインフレになってしまったとしても国家は困るどころかむしろそれを待ち望んでいるのです。

現在の借金額1,200兆円は「約30年分の税収」に値しますが、極端なインフレによって税収が「もし300兆円になったら」、借金は無いに等しくなるからです。

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インフレになると資産も減る
インフレで資産は減る

借金を抱えているものにとって、インフレは歓迎すべきことです。
では、資産を持っている人にとってはどうでしょうか。
インフレとは、物価が継続的に上がることです。
物価が上がると当然支出が増えることになります。

例えば卵1パックが200円だとします。
1万円で50パック買うことができます。
言い方を変えると、このときの1万円の価値は卵を50パック買える価値ということになります。
では、インフレとなって卵1パックの値段が400円になったらどうでしょうか。
1万円で25パックしか買えませんね。
これは1万円の価値が半分になってしまったことを意味します。(図12参照)

物価が倍になると、資産は半分の価値となるのです。

インフレが、もっと極端に進行して、物価が10倍になると資産は10分の1となってしまうのです。
今、あなたが数千万円の金融資産を持っていても、インフレになるとどんどん目減りしていくことになります。
もしも制御できないほどのインフレになると資産は無いに等しくなってしまいます。
資産を持っているものにとってインフレは、最も困ることなのです。

では、物価が下がるデフレはどうでしょうか。物価が下がるとお金の価値が相対的に上がることになります。
先の例で卵1パックが100円になると1万円で100パック買えるようになるからです。

このように資産を持っているものにとってデフレは歓迎すべきことなのです。
一方、デフレになると借金は増えることになります。
デフレによって給料が20万円になると借金100万円は給料5ヶ月分になってしまうからです。

このように、資産を持っているものにとってデフレは望ましく、インフレは最悪です。
その反対に借金を抱えているものにとってはインフレが望ましく、デフレは最悪なのです。

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国家と、国民の利害は、完全対立構造
インフレで負債の穴埋め

国家は借金を抱えています。一方、国民は資産を持っています。
その利害は完全な対立構造になります。

『国家が大丈夫』の為には、『国民は大丈夫じゃない』となるのが、必然なのです。
国はインフレを望んでいます。
そのためにデフレ=悪という洗脳をしています。

デフレは、現在資産を持っているリタイヤ層にとっては実にありがたいことなのに、その人たちまでがデフレは良くないと思い込まされているのです。

1990年のバブル崩壊から今日に至るまで、デフレが進行しました。
そのおかげで日本円という資産は大変膨らんでいるのです。
超低金利によって額面上のお金は決して殖えていませんが、同じ金額でたくさんの物を買えるようになった訳ですから、確実に日本円の資産価値は殖えたのです。

資産をお持ちの方々、騙されてはいけません。デフレが資産を持っている人には最高なのです。
インフレは借金を持っているものが望んでいるということをしっかりとご理解ください。
国家はインフレによって借金を目減りさせることを企んでいます。(図13参照)
インフレになると国民の金融資産が減ることがわかっていても、国家財政が破綻しないためには仕方のないことなのです。

これは、国民の金融資産で国家の借金を穴埋めさせられることを意味します。

インフレとデフレを決めている要素は様々ありますが、現在その最大の要因は為替レートということになります。
日本は輸入大国ですので、円安か円高かによって物価は大きく影響を受けることになります。

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円安と円高、どっちがいいのか
円高・円安とドル高・ドル安

現在、未曾有の円高が続いていますが、私たち国民にとっては円安と円高はどっちがいいのでしょうか。

結論に入る前に、まずは為替レートについて少しおさらいしましょう。
為替レートとは、外国通貨の単位価格で、「1ドルが何円で買えるのか」、「1ユーロが何円で買えるのか」が示されています。

最も大切な『ドル円レート』について見ていきましょう。
通常、円安とか円高というのは、ドルに対して円が安くなったのか、高くなったのかを見るからです。

1ドルが、仮に100円だったとしましょう。これは1ドルを買うのに100円が必要ということを意味します。
もし、1ドルが105円になったらどうでしょうか。

今まで1ドルは100円で買えたのに、105円出さないと買えなくなったということです。
ドル高になったということです。
これはドルがインフレになったということなので、相対的に「円の価値が下がった」つまり『円安になった』ということです。

一方、1ドルが90円になると、今まで100円かかったドルが、90円で買えることになります。ドル安です。
ドルがデフレになったので、相対的に「円の価値が上がった」、つまりは『円高になった』ということになります。(図14参照)
このようにドルが高くなるのが『円安』で、ドルが安くなるのが『円高』です。

為替レート(ドル円)の推移

では、『ドル円レート』の歴史を見てみましょう。(図15参照)
1970年までは、1ドル=360円の固定レート(相場)制でした。
今の1ドル80円台から見ると、とんでもない円安です。
今よりもドルが4倍以上も高かったのです。

これは1ドルを手に入れるのに、今の4倍以上も円貨を出さなければならなかったことを意味し、当然すべての輸入品が今の4倍以上したということです。全ての輸入品が4倍以上です。

メルセデスベンツのSクラスが5,000万円、エルメスのバーキンが正規価格で250万円、ロールスロイスは2億円という感じでしょうか。

もちろん、海外旅行も今の4倍以上かかった訳です。
新婚旅行が熱海だったのも、うなずけますね。
ガソリンも輸入品です。ですから国産車も大変贅沢品だったのです。

輸入食品も贅沢な食べ物と言われていたのが、幼いころの記憶にかろうじて残っています。
この頃に外車やブランド品を保有し、海外旅行に行けたのは、ほんの一握りの大金持ちに限定されたのです。

日本で製造していた家電品なども原材料は輸入していましたので、そのバカ高いコストは製品価格に転嫁され、かなりの贅沢品になっていたのです。

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円高の恩恵で、日本国民は豊かになれた

1971年に初めて円の切り上げが行われ、1ドルが325円と少し円高に振れました。
1973年から変動相場制に完全移行し、1ドルは300円を初めて割れました。
1978年にはついに1ドルが200円割れを記録し、1985年のプラザ合意以降、100円台の本格的円高時代に突入しました。

1971年から今日の80円台まで、長期的にはずっと円高トレンドでした。

普通のサラリーマンやOLが、海外旅行に気軽に行けるようになったのは、間違いなく『円高』の恩恵です。
家電品や外車などが安く買えるようになったのも円高のおかげです。

日本は輸入大国です。輸入品というのは、今日ではなにも贅沢品だけではありません。
食料品の60%以上は輸入に頼っています。円高のおかげで輸入食品を安く買えるようになったのです。
さらに米などは国産ですが、その肥料や農薬は輸入品を使用しています。
国産の食品も、その製造コストは円高円安の影響を受けているのです。

このように、私たちの生活費のほとんどが為替レートに支配されている現実があるのです。
1ドル360円という超円安から円高になったことによって、物価が安くなり生活費が少なくて済むようになったのです。

消費支出が減ると当然貯蓄が増え、個人資産は増えます。
私たち日本国民が個人資産を持つことが出来たのは円高の恩恵も大きかったのです。

資産を形成したり増やすという面においては、「円高」がいいに決まっているのです。
円高は物価を下げるデフレを引き起こすので、『資産』を持っている国民にとっては望ましいことになります。
その反対に『借金』を持っている国家にとっては円高は最悪となります。

円高と円安どっちがいいのかという問題を考えるときにも、やはり「誰にとって」ということが最も大事なのです。
為替レートにおいても、『国家と国民の利害は対立する』ということを常に忘れないでいただきたいと思います。

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円安になると、資産は減ることになる

もし、1ドル360円に逆戻りしたらどうなるでしょうか。
年末年始を海外で過ごしたりする人は、ほとんどいなくなるでしょう。
海外旅行も、ブランド品も、外車も、今の4倍になります。輸入食品もガソリンも4倍以上となり、国産の食品や製品も、相当な値上げとなるでしょう。

円安になるとインフレになるので、「消費支出が4倍以上になる」ということは、「資産が4分の1以下に減る」ということになってしまうのです。

そこまで極端ではなくとも、円が安くなるということは普通に考えて円の価値が減るということになります。
1ドルが160円になったら、今お持ちの円資産は半分の価値になってしまうのです。
「資産」を持っている国民にとっては円安の進行は最悪となります。

その反対に「借金」を抱えている国家にとっては、円安は待ち望むことになるのです。
円が安くなると円借金も減ります。1,000万円という借金は1ドルが100円の時は10万ドルないと返せませんが、極端な話、1ドルが1,000円になるとたった1万ドルで返せることになるからです。

日本国家のバランスシートを見てみると、借金はすべて円建てですが、一方ではアメリカからの米国債を買わされるなどして、ドル建ての資産を結構持っています。
円安ドル高は、円借金を減らしてドル資産を増やすので国家にとっては大変都合のいいことなのです。

資産をお持ちの日本国民、特に労働収入を持たない年配の方々にとっては、円安は最も大変なことになるのです。
ほとんどの日本国民が円建ての資産しか持っていないのですから。

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円安は収入を増やしてくれる
円安の進行で収入が増える

日本は輸入大国であると同時に輸出大国でもあります。輸出企業にとっては円高は大変ありがたいことになります。

日本車がアメリカで1万ドルで売れたとき、1ドル80円ならば80万円の売上げにしかなりませんが、1ドルがもし200円になれば200万円の売上げになります。
輸出企業にとっては円安が進行すると、円での収入がどんどん増えていくことになります。(図16参照)

日本の製造業の大半が、最終的には輸出業者に納品しています。
輸出企業の業績が上がれば、おのずと製造業の売上げもアップすることになります。
そうなると輸出企業や製造業に従事する人々の給料も上がります。
企業や社員の収入が増えれば、それが使われてサービス業などの業績も上がることになっていきます。

円高と円安が及ぼす影響

円安は収入面にはプラスに働くのです。
ですから、現在資産がまだない若年労働者にとっては円安はいいことかもしれません。
しかし、リタイヤしている人々にとっては収入アップは望めずに資産が減ることになるので最悪なのです。

円安は収入は増やしてくれますが、消費支出も増えて個人資産は減るということを忘れないようにしましょう。(図17参照)

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円安誘導で税収を増やし、国家の借金も目減りさせる

円安になるともう一つ増える収入があります。それは税収です。

企業業績が上がり、労働者の収入も上がればおのずと税収も増えることになります。
更に円安になると借金は目減りするのです。

借金をたんまり抱えた日本国家にとっては、円安はたまらない魅力なのです。
1ドルを120円、150円、200円、300円と、時間をかけて穏やかに円安に誘導していくことで、税収がどんどん上がり借金はどんどん目減りしていきます。

これに加えて消費税アップや財産税の導入などを併用すれば、国家財政はどう考えても破綻するわけがないのです。
『国家は大丈夫』という人の論理はこのあたりにあるのです。
こんな政策で国家財政の破たんが免れたとき、「国民は大丈夫でしょうか?

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これは国民資産の静かなる収奪だ
円安で借金は穴埋めされる

国民の円資産は円安が進行すると、どんどん目減りしていきます。
一方で国家の借金も目減りしていきます。
これは円安誘導というマジックによって、国民資産が国家に収奪されていくということなのです。

さらに、消費税増税などが行われるたびに、国民の金融資産は減って国家の借金も減っていくことになります。
やがては国家の借金は全て国民の金融資産できれいに穴埋めされることでしょう。(図18参照)

国家が破産しないためには、国民を破産させるしかないということなのです。
こうして国民の金融資産は国家のものとなってしまうのです。

別章で述べたように、いくら国家によって作ってもらった「幻の資産」とはいえ、黙って収奪されるわけにはいかないと思いませんか?
家族の為に、個人資産をなんとしても守らねばと考えるのがごく自然なことでしょう。

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気付いたときには手遅れとなる

国家は円安にしたいのです。
そのために『円高=悪』『デフレ=悪』という刷り込みをマスコミを使って日々行っています。
資産を持っている人にとっては円高とデフレのほうが良いにも関わらず。

円安になると輸出企業は気を吐き、株価は上がり好景気となります。
失業率も下がり、給料も上がることになるでしょう。
収入面では円安のほうが良いわけですから、円安が進行するのを歓迎する空気となることでしょう。
1ドルが100円を超えて120円、150円となっていくことを、まるで社会全体が望んでいたかのようなムードになることでしょう。

しかし、その陰で確実に国民の個人金融資産は目減りしていくことになります。
食品を始めとする物価の上昇に気付いた時に、初めて円安の恐ろしさに驚くのでしょう。
鈍感な日本国民は、おそらく1ドル200円近くにならないと、円安が自分の資産を奪っている実感は持てないでしょう。

沸騰したお湯にカエルを入れると、熱さに驚いてカエルは跳びだします。
しかし、冷水にカエルを入れ、ゆっくりと温度を上げていくと、気付かずにカエルは茹で上がります。
ゆっくりと円安に誘導していくと、ものの見事に日本国民は茹で上がるでしょう。

こうして国民は、「資産を失う」=「破産」することになるシナリオがあったのです。

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想定外の事態が起きた

2007年までは円安誘導が功を奏して、1ドル123円ぐらいまでの円安が進行していました。
このまま円安がもっと進行すれば、国家財政は破綻せずに国民の個人金融資産で穴埋めされるはずでした。

ところがサブプライムローン問題に端を発した金融危機、いわゆるリーマンショックによって円安誘導が出来なくなってしまいました。
アメリカが自国の産業を立て直すために、強烈なドル安政策を始めたからです。
日本国家の意に反した、ドル安=円高が一気に進行することになってしまったのです。

これは国民にとって、いいことなのでしょうか。ことはそう単純ではありません。
実はもっと深刻な事態となったのです。詳しくは別章でじっくりと述べましょう。

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